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ナイスコントロール ガリクソン投手からのおくりもの 連載(13)

それからアメリカの野球界には、こんな面白いエピソードがあることを教わりました。 15年くらい前のことです。ランサントという打率のとてもよい打者がいえ、彼は自分が糖尿病だというと野球を首になるのではないかと思って秘密にしていたそうです。ところが、ある日、彼がバスルームでインスリンを注射しているところが、鏡にうつってたまたま彼の同室にいた選手がそれを見てしまったのです。その選手はランラントが打率がよいのはきっとその注射をしているせいに違いない、と考えてみんなに言い触らしてしまったのです。それ以来、インスリンはボールがよく打てる注射として野球界の話題になったくらいです。このおかげで、ランサントは自分が糖尿病であることや、インスリン注射をしていることを秘密にする必要がなくなった、との話でした。  とはいえ、糖尿病と供に生きる、ということは、たとえ周り人達の協力が得られたとしても、とても大変なことがまだまだ沢山ありました。そのひとつが遠征のための移動です。アメリカは広いので、大リーグともなると各地をいろいろ旅行しなければいけません。もちろん飛行機で何時間もかけて移動するなんていうのも日常茶飯事のことでした。ですから当然食事の時間も狂ってきます。飛行機の中ですから、運動したくても運動できません。それに大リーグの他の選手達というのはとにかくタフな連中で、普通の人ならげんなりしてしまうようなカロリーの多い食事でも、ペロリとたいらげてしまう人間が多いのです。それも時差を無視して食事がでてきますから、数時間と断たないうちに2000kcalもある食事をたてつづけに胃袋に放りこむのです。こういう連中の中にいつもいると僕の食事の感覚も麻痺してしまうこともありました。これには、困ってしまうのですが、自分は自分だ、と割り切って、できるだけ生活管理をうまくするようにしていました。一日に3度きちんと食事をし、時間のずれた無理な食事をするのは避けました。もちろん機内食も出されるものを全部食べたりはしませんでした。  それから、オフシーズンになると、途端に運動量が減ったり、生活リズムががらりと変わってしまいます。またアメリカでは、オフシーズンは日本のようにハードなトレーニングはしません。ですから、僕は自分の日課として、必ずランニングをすることにしました。運動をすればそれが血糖値をさげてくれて、インスリンの必要量も減らすことができるのです。でも、やはりシーズン中のような激しい運動を毎日続けるわけではないですから、やはり糖分の消費効率は悪く、血糖が高くなることが多いようでした。このような時には、僕は速攻型のインスリンという、短時間ですぐに血糖を下げてくれる働きのあるインスリンを、追加して注射しました。そうすれば、運動の減ったぶんインスリンで血糖値を調整することができるからです。  このようなことも、お医者さんに相談しないで、自分の判断だけでやることには、最初はかなりの勇気と決断が必要でした。でも少しづつ、時間をかけてトライしていけば恐怖感はへり、どんな状況でも対応できるんだ、という自信が生まれてきました。  でも、こんなに気を配っていても、人間の生活ですから、事故というのはおきてしまいます。僕にも一度だけ、試合中に低血糖を起こした経験があります。それは、ちょうどピッツバーグとの試合中でした。いまでもはっきりと覚えています。自分としては、きちんと血糖をコントロールして試合にでたのですけれども、途中で雨が降ってきたのです。試合は中断しました。大リーグではお客さんを大事にしますから、なかなか中止というのはありません。それから、大リーグでは、ひきわけ、というのがないように、いつまでもゲーム時間を延ばすことができます。時には、深夜の2時、3時まででも試合をすることもあります。ですから、この日も雨がやむまで、かなりの時間、ベンチの中で待たされてしまったのです。そして僕のミスはこの時十分なスナックをとらないでしまったことでした。  そのうちに雨はやみ、試合は再開しました。僕がマウンドに立ったときにはまったく普通の状態で、大丈夫と思いました。ところが、投げている内に、おやっと思いました。自分の体がふるえているのです。しまった、低血糖だ、と思ったけれどもどうにもなりません。これにはまいりました、僕はマウンドのうえで、大観衆の見ているまんなかで、ひとりで低血糖と闘わなければいけなかったのです。  ピッチャーですから、不安や恐怖を表情にだすわけにはいきません。とにかく低血糖がひどくなるまえに、早く打ってくれ、と思って投げたボールを、うまい具合いに次のバッターは二人ともフライにしてくれました。僕はゆっくり歩いてダッグアウトに戻り飴をなめました。すると、数分のうちに体のふるえはとまり、また力がわいてきました。僕は大観衆の目の前で、糖尿病の一番こわい相手、低血糖をコントロールしてみせたのです。そして、その後の回には元気になってシャットアウト勝ちでした。  とても怖い経験だったけれど、これはとてもいい教訓になりました。糖尿病の場合、こういう体験を恐れていてはいけない、こういう体験を生かして、どんな状況でも対応できるように訓練していかなければいけない、この時にはそう考えました。 ナイスコントロール ! - ガリクソン投手のおくりもの ビル・ガリクソン (著), 鈴木 吉彦 (著) 医歯薬出版株式会社 supported by 放射線技師 H



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